ミルワーム
……前書き……
数年前に書いた短編です。テスト投稿。
少々の暴力描写注意。
ずくの主な活動はTwitterにて→@hamitozuku
(https://twitter.com/mogujinniku/status/1143158048615063554?s=21)
『ミルワーム』
中二の時、ふと思い立って蟻の飼育動画を見た。
動画の中の男が「生き餌を与えてみよう」と言って、
ミルワームを一匹つまみ上げ、半透明の柔らかな腹にズブリ、と爪を突き立てた。
傷付いたミルワームは非情にも蟻の飼育ケースに落とされ、異変に気づいた蟻どもが群がっていく。
そのまま、息を呑む俺の目の前で、噛みつかれ、引き摺られ、徐々に抵抗する力を失っていくのだ。
「ちょっと弱らせ過ぎたかな」
格闘シーンが見たかったんだけど、という呑気な声が、どこか遠く感じた。
それから三年。
高校に入ってチャラい奴らとつるむようになった俺は、それなりに普通に学校生活を送っていた。
「なんか最近つまんねーな」
二年に上がったという実感も沸いてきた頃、遊び仲間のKが言った。
「あいつにちょっかいかけようぜ」
Kが指したのは、クラスの優等生であるTだ。
「やめとけよ、あいつセンコーの気に入りだろ」
目をつけられては厄介だという静止も聞かず、
「喋らないように脅せばいいんだよ」
KはずかずかとTの机に歩み寄った。
ちょっと面かせや、みたいなありがちな呼び出しが聞こえ、
心底面倒臭い展開に、俺はため息をつくしかなかった。
ちょっかいがちょっかいで終わる訳もない。
それはイジメとしてエスカレートしていき、
性懲りもなく反抗するTを、仲間たちは下卑た笑いをあげて苛み続けた。
今日もまた旧校舎のトイレでは、小柄なTに学ランを気崩した男たちが群がる。
入口で見張りをする、と申し出た俺の目の前で繰り広げられる、刺激的な光景。
「やめろ…」
少し高いTの声が耳に届く。
男たちはげらげらと笑いながら、晒されたTの下半身にいやらしく触れる。
羞恥と嫌悪に歪んだTの瞳が揺れ、
両手を縛られた不自由な身体で抵抗しては頬を殴られる。
「……」
その度に膨らむ、俺の劣情。
理不尽に痛めつけられるTに、あのミルワームを重ねる自分がいた。
頬を腫らし、唇を切ってもなお男たちを睨みつける目や、
掴み上げられ引き摺られよろよろになったシャツ、
はだけ、華奢な肩を強調させる黒い学ラン。
触れられ行き場なく揺れる白い脚も、その全てが官能的に映る。
「あっ」
痛みと共に与えられる申し訳程度の快楽に、Tは抗いきれず明らかに初めの頃の威勢を失っている。
と、同時にきっと彼のプライドも獣の本能によって引き裂かれているはずだ。
長い責め苦の末満足した様子の男たちは、
「じゃーな、明日も楽しもうぜ」
「逃げようなんて考えんなよ淫売クン」
思い思いの言葉を投げ、下品に笑いながらトイレを後にする。
後に残されたのは男たちの欲望に汚されたTと、
「……」
そのなまめかしい身体を見下ろし、静かな情欲を滾(たぎ)らせる俺だけ。
ああ今この細い肉体から、彼としての命が奪われていく。
快楽を得るためだけの、下劣な行為によって、
強い目の光が濁っていく。
「君もあいつらと同じなの」
一杯に涙を溜めて、Tは俺を見た。
いいや、と俺は答える。
「俺は哀れなミルワームが死ぬのを待ってるだけの、死神だ」
「ミルワームって、生き餌の芋虫…?」
「そう」
理解できない、とでも言いたげなTに近づき、
傷付いた身体に優しく触れる。
強ばる肢体と、熱を持った肌を愛しく思いながら、
「俺は死体まで可愛がってやるから、安心して死ねよ」
怯えるTに残忍な笑顔を向ける。
「ぐ……っ」
どっ、という鈍い音が響いて、腹に拳を受けたTは意識を手放した。
アザの浮きかけた滑らかな腹部に、噛みちぎるほどの力で歯形をつけて、俺は笑う。
「おやすみ、俺のミルワーム」
その噛み跡が君を早く殺しますようにと、
願いと呪いを込めて。