ネズミとミミズク(4)

鼠神に対する大きすぎる気持ちについて考えるうち、もしやこれは恋心に近いものなのではないか、という気がしてきました。

というのも、鼠神の声を思い返して自慰に近いことをしそうになったからです。

その時は「感情が昂りすぎたせい」と理由をつけましたが、もしも本当に恋心だった場合…

それまでの鼠神の投稿で、鼠神が同性での恋愛に抵抗がなさそうなことは知っていました。正直やった!と思いました。

それとなく、自分も同性愛に抵抗がない(というより、自分の中の性別が決まりきっていない)旨の投稿をしました。

誰にも鼠神をとられたくないと思いつつ、未成年という立場、ろくに自立もしていなくて、社会に出たこともない人間が、ひとりのひとを愛す資格などあるのか、と悩みました。

性別、年齢、立場、出会ってからの期間の短さ、物理的距離。

あまりにハンデが大き過ぎます。鼠神に軽蔑されるのでは、と思いました。

まずは自分の中でこの気持ちを試そうと考え、せめて20歳になって自立してから、その時まだ想いが消えていないのなら告白してもいいだろうと思いました。

そんな中、2回目のコラボの日がやって来ました。

前回の配信で鼠神がとても喋りやすく接してくれたのもあり、2回目はリラックスした状態で、遊びのような感覚でお話ししました。

方言の話をしたり、鼠神の声に惚れ込んだ自分が、無理言って恥ずかしめのセリフ音読をしてもらったりして。

その時の配信は鼠さんの方から行っていて、後日謎のエラーで消えてしまったようで、記録は鼠さんのUSBの中にしか残っていません。

どういった流れかは忘れましたが、鼠神の、配信の終わりがけでの話が、自分の決意のきっかけでした。

「学生のときゲーセンでの帰り、駅で後ろから頭に袋を被せられて気を失った」と。

7月だったと思いますが、一気に寒くなったような気がしました。

鼠神は「イタズラだったと思う」と言っていましたが、明確な悪意があったことは確かで、吐き気がしそうでした。

恐らく相手は男で、手口的に連れ去ろうとしたのだろうと。

偶然、怪しんだ駅員さんが声をかけるとそいつは逃げたらしく、結果的には何もなかったそうです。

しかし、酸欠で後遺症になったかもしれないのです。

腹が立ちすぎて、何も気の利いた言葉が出ませんでした。

明らかに自分の感情を制御できず、うやむやに配信を終えた後、少し自分の気持ちを整理しました。

鼠神の話を聞いて一番恐怖したのが、鼠神の作品を見た当初の「今伝えないと消えてしまうかもしれない」という気持ちが蘇ったことでした。

鼠神に対して、悪意や邪な空気を感じたことは一切ありませんでした。しかし、その話を聞いてから、「鼠神の周りには悪い空気が充満しているのではないか」と思ったのです。

そう思ってからの自分の行動は早いものでした。

とにかく一刻も早く、鼠神の周りの邪気を減らしたかったのです。

意志薄弱で情けないとは思いましたが、自分はDMで鼠神にほぼラブレターとも取れるメッセージを送りました。

「今はまだ全部の気持ちは伝えられないけど、鼠神のことが大好きで変な虫は燃やすとまで言ってる奴がいるってことを意識して、いざというときはそういう空気漂わせて逃げてください」

というようなことを書いた気がします。

鼠神が他者から与えられる愛を意識したとき、その空気が鼠神をエサにしようとする奴を遠ざけるのではないか、と考えました。